こんにちは。弁護士の後藤壮一です。
介護施設では、利用者の健康状態が急変することがあります。転倒や誤嚥、突然の体調悪化など、迅速な対応が求められる場面では、施設側が適切に医療機関へ搬送する義務を負う場合があります。本コラムでは、その法的責任と対応のポイントについて解説します。

施設側の搬送義務が問われるケース
一般的に介護施設には、介護中に利用者の生命及び身体等に異常が生じた場合には、速やかに医師の助言を受け、必要な診療を受けさせるべき義務を負うとされています。もっとも、介護施設が具体的に医療機関への搬送義務を負うかどうかは、以下の要素によって判断されます。

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- 緊急性の判断
- 利用者の症状が生命に関わる可能性がある場合、施設側は速やかに医療機関へ搬送する義務を負います。例えば、意識障害や呼吸困難、重度の外傷などが発生した場合、救急搬送が必要とされます。
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- 適切な対応の有無
- 施設側が利用者の異変を認識しながら適切な対応を怠った場合、過失が問われる可能性があります。過去の判例では、施設が搬送を遅らせた結果、利用者の病状が悪化したケースで責任が認められた例があります。
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- 契約上の義務
- 介護施設と利用者の契約内容によっては、緊急時の対応方針が明記されている場合があります。例えば、「健康状態の急変時には速やかに医療機関と連携する」といった規定がある場合、施設側はその義務を果たす必要があります。
裁判例をご紹介
過去の裁判例には次のようなものがあります。
東京地裁平成25年5月20日判決(判例時報 2208号67頁)
転倒後に身体の内部に生じた何らかの原因によって右足ないしは腰部に痛みを生ずる状態となったことや、症状が短時間に解消するものではなく継続的なものであると認識したことから、介護施設は、医師に相談するなどして、その助言により痛みの原因を確認し、医師の指示に基づき、その原因に応じた必要かつ適切な医療措置を受けさせるべき義務を負っていたとして、慰謝料が一部認容されました。
東京地裁平成24年5月30日判決(自保ジャーナル 1879号186頁)
転倒後も利用者に意識があったこと、その後に介護施設において経過観察をしていたところ、利用者が吐き気を訴えたため、その約15分後には病院に搬送されたことから、介護施設側に救急搬送義務違反は認められないと判断され、請求は棄却されました。
施設側が取るべき対策
介護施設が適切な対応を行うためには、以下のような対策が求められます。
- 職員の緊急対応マニュアルの整備
- 医療機関との連携体制の強化
- 利用者の健康状態の定期的なチェック
- 救急搬送の判断基準の明確化
介護施設における医療機関への搬送義務は、利用者の安全を守るために不可欠です。搬送義務違反が争点となっている場合には、施設側が適切な対応を行い、利用者の健康を守る責任を果たしていたかを確認する必要があります。
弁護士 後藤 壮一
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